日々コレ雑感☆

ちょっと高めのコレステロール値と、うまく楽しく付き合う毎日の記録

【食わず嫌い克服大作戦(その3)】~拝啓、いつかの岡田将生様~

もはや何がテーマのブログだったのか分からなくなってきた今日この頃。こうなったらトコトン本末転倒してやるわ。

ということで本日は、この夏の猛暑で粘度が増した我が血液を、サラッサラに浄化してくれそうに涼やかな方を語って、食わず嫌いシリーズの有終の美を飾りたいと思います。

その人の名は、岡田将生

左様、イケメンどころの騒ぎじゃない、あの絶世の美男子でござる。

え、そんな褒めてるのになんで食わず嫌いの話題に出てくるかって?

実はお恥ずかしいことにワタクシ、長い間この方をアイドルと勘違いしておりまして・・・その姿に見惚れることはあっても真面目に芝居を見たことがなく、いや正直、見ても心惹かれることがなかったのです。

なんというか、キレイすぎて無味・無臭。

画面越しに見えているのは岡田将生という名の芸術品であって、本当は人として存在していないんじゃないかーそんな風に思えてしまうほど、どんなに熱演していても、なぜか体温を感じられない俳優さんでした。

ようやく「ゆとりですがなにか」で「おっ、実は演技上手いんじゃない?」と気付きはしたものの、居並ぶ共演者のアクが強すぎて強烈な印象を残すまでには至らず。その後も風景でも見るかのようにスルーしておりました。

 

ところがこの自粛期間中に、以前、夫くんが熱心に見ていた「昭和元禄落語心中」をきちんと見直したところ・・・岡田将生の”生身の人間”としての魅力に開眼。

まず冒頭の白髪&シワだらけの八雲師匠の和服姿を見てびっくりしましたよ。ガリガリの痩身なのに、色気どころか妖気まで漂わせて名人の貫禄十分。しかもその佇まいから匂いが甦るんですよ、今はなき昭和の匂いが。

子どもの頃、祖父の部屋で嗅いだのとおんなじ、タバコと樟脳と仁丹と整髪料の匂いが入り混じった、昔の爺の香りが見事に立ち上っているじゃあないか。ついでに戦争を経験した世代独特の、肝の据わった凄みまで出てる。

ええっ、アンタほんとに、ふわふわパーマでいつもニコニコしてる岡田くんかい?

平成生まれの、イケメンの代表みたいな俳優さんのはずだよねえ。それがニコリともしない辛気臭さで、難役に息を吹き込んでいる・・・。

ああもう、こんなに立派な役者さんを”イケメン”なんて軽い言葉で片付けてきた私、バカバカバカっ!

本当に、ごめんよ・・・

見過ごしてきた、いつかの岡田くん。

どうかこの醜く愚かなオババを許しておくれ。

そしてそれに続く、八雲師匠の若かりし日々ー

菊比古時代の芝居には、もっと唸らされたのでございます。

菊比古というのは、未熟で自己中で、どうしようもなく拗らせてる男。

一見遠慮がちで礼儀正しいんだけど、どこか自分が優先されるべきと思っている太々しさがあって、人から与えられているものの大きさに気付かない。そうした性質に、足が不自由なことで味わう屈辱が入り混じっているから、もう大変だ。

その繊細な尊大さとでも申しますかねえ、一筋縄ではいかない感じを醸しだす岡田くんの狐っぽい表情や、嫌味すら感じさせる妙に落ち着き払った所作が秀逸でした。

そうかと思えば、足を引き摺りながらの竹槍訓練姿は痛々しくも乙女のように可憐、「死神」の稽古をつけてもらう時の健気で真摯な眼差しは憑き物が落ちたような清々しさで・・・

その天使と悪魔が同居したような表情に、あたしゃ完全にやられましたよ。座布団100枚!

私が見ている画面の向こうにはもう、何でもサラっと器用にやってのける”雲の上のイケメン俳優”の姿はなく、女々しく助六の背中にしがみつき、動かない足で地を這うようにもがく、ひとりの青年がいるだけでした。

この泥臭さがあったからこそ、助六やみよ吉の哀しさー自由奔放に見えて肝心な時には自分を差し出してしまう潔さーそれが何倍にも儚く光って見えたのです。

もしかしたら、八雲や菊比古をもっと上手く演じられる俳優はいたのかもしれない。でも、この世界観を作り出して、共演者まで輝かせられるのは岡田将生という役者だけ。

もう演技力がどうという話じゃない。

岡田将生という俳優が、彼自身の美しい肉体を使って若き菊比古の嫉妬や未練、傲慢といった業の深さを見事に昇華し、役者としての意地と気高さで70代の名人八雲すら捻じ伏せてしまった。

ついにこの人に心を動かされた。

いままで冷たい後光が射していた岡田将生という”ご神体”が、ずっしりと湿り気と温みを帯びた、血の通った人間になって立ち現れたのです。

 

見事に大役を生ききって、役と心中した岡田さん。

八雲ほどの人物に出会えることはフィクションの世界でもそうそうないだろうけれど、この人にならチャンスがまたきっと巡ってくるはず。

これからも、何度も役と心中しながら蘇ってください。

そして本物の白髪と皺のお爺さんになっても、どうか永遠に美しく。

次の代表作を心待ちにしています。