【スナックの快楽 バーの愉悦(その2)】
昔話しか書かなくなってきている今日この頃・・・
気を取り直して今日はバーのお話を。
さて、同じお酒を出す夜のお店なのに、前回のスナックとは全く様相の異なる“バー”という空間。もう語感からして違うもんね。
名探偵マーロウや舘ひろしみたいなシブいおじさんばっかりが居るところ。
いくら年をとっても、お金を持っていても、入れない人は入れない(笑)
なんというか、入る資格や理由を要求されているような敷居の高さが苦手でした。
で、20年前に先輩に初めて連れていかれたのがなんと“ジャズバー”。
え、なんで?ワタクシ、そもそもジャズがよく分かりませんのに・・・
ハルキ・ムラカミの初期の小説に出てくるような所かな?と恐る恐るついて行ったら、まさにイメージ通りのお店でした。
真っ黒な分厚いドアを開けると、カウンターの中にいた中年の女主人が目だけであいさつ。
「あ、今日はお連れさんがいらっしゃるのね」みたいな目の動きがカッコよかったことを覚えています。
生演奏があるような大きな規模の店じゃなくて、カウンターだけの小さな店舗。
ほとんど照明もなく、古いジャズのレコードが音量抑え気味にかかっており、小柄なマダムが一人で経営しているようでした。
当時30代前半だった先輩は常連らしく、何も言わずにいつも座っているらしい席へ・・・
背の低い私は、音をたてないようにスツールに腰掛けるので精いっぱい。
で、先輩は「いつもの」みたいなことをつぶやいて早々に自分の世界に入っちゃったじゃないの!どうすんのよ、ワタシ。これ、放置プレイですか?
先客が2人ほどいらっしゃいましたが、これまたみんな無言。
目を閉じてジャズの世界に入っていらっしゃいます。
いや困るんだよねー、この感じ。ワタシ、声が大きいから。
苦手な小声で話さなければならないプレッシャーのせいか、肝心のお酒については何をどう注文したのかは全く覚えておらず。
手作りっぽいトリュフチョコが載った小皿が、サッと出てきたことだけを鮮明に覚えています。
冬だったのでホットカクテルを飲んだ気がするのですが・・・
カルーアミルクの熱いようなやつ。
何しろマダムの佇まいに圧倒されちまってね。
失礼ながら美人じゃないし、若くもない。
おまけにニコリともしない。
ショートカットの小柄な人で、ゴージャスっていうわけでもない。
TVによくでてくるような長身で手足の長い女バーテンダーみたいな派手さもない。
なのに素敵なんです。
パリのマダムみたいな高級感があって。
愛想はないけど、全部察してくれる。
最初はみんな無表情&無言の空間に戸惑いましたが、慣れると居心地は悪くない。
こちらも無理に笑顔を作る必要がないから。
ここではしゃべらないことが一番のおもてなしなのかも。
ジャズはさっぱり分からないけど。
レコードの音って、温かみがあっていいなと思いましたね。
そんな風に過ごした小一時間。
先輩が急に「帰るぞ」と言い出して、ジ・エンドとなりましたが、貴重な体験になりました。
なんでこのお店に連れていかれたのかはいまだに謎ですが、当時変にサービス精神を発揮しすぎて疲れ気味だった私を解放してくれたひと時でした。
粋だね、先輩。サンキュー。