【老舗高級店への扉が開いた瞬間】
さて、半分学生気分だった新人研修も終了し、秋から本格的な社会人生活をスタートさせた私。
毎週のように新しい人と出会ってドンチャン騒ぎをしていた身には、毎日同じメンバーと顔を合わせて淡々と過ごす日々が物足りなく思えたものでした。
多分ランナーズハイみたいな精神状態。
実際には心身ともに限界に達していたのに、”もっと”を求めていたのでしょう。
その証拠に「つまんない」と感じながらも生活は落ち着きを取り戻し、胃腸も徐々に回復。
顔中にできていたニキビも沈静化いたしました。
で、大した仕事もしていないのに12月には冬のボーナスをしっかりといただいた私。
友人たちも皆同じようなものだったから、これまで縁のなかったようなお店に出入りするようになったのでございます。
HPが一般的でなかった当時、飲食店の情報はグルメ雑誌かTV、詳しい人からの口コミで仕入れるしかありません。
だから友達を”いい感じの店”に連れていけるというのは、一種のステイタスだったわけですよ。
だからみんな競争(笑)
特に私は田舎者ですからね、”東京の”名店にこだわっていました。
分不相応に背伸びしては、老舗や有名店巡り。
たとえば・・・
◎駒形の鰻屋『前川』・・・
味の良しあしは正直よく分からない(笑)しかし江戸情緒や粋な雰囲気を味わうにはこの上なしのシチュエーションでしたね。ビールを片手に隅田川を眺める私って素敵。
もう気分は池波正太郎。
予想以上のあっさりした鰻に驚きました。
◎浅草のすき焼き『ちんや』・・・
まず入店していきなり下足番のおじさんがいる事実に軽く衝撃を受ける。高級でない靴を恐縮しながら差し出して赤じゅうたんを進むと、白座布団が並んでいる大広間の座敷へ通されます。目の前には一人ずつ用意されたコンロ。それまで、すき焼きは家でしか食べたことのなかった私は、その美味しさに涙を流しましたとさ。個人的には、かの有名店『今半』よりもコチラが好きだった。
◎両国の軍鶏鍋『かど家』でも・・・
ちょっとコワモテの和服の中居さんがお給仕&指導役。彼女がちょっと外したすきに勝手に鍋を作ろうとした仲間がいたのですが・・・案の定順番を間違えて、手厳しくお叱りを受けました。個人的にはこういう接客アリだと思います。フフフ。
さらに当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった大手マスコミに就職した友人たちとは、なぜか帝国ホテルのバーに繰り出したことも◎
きっと裏で笑われていたんでしょうけどね(汗)
20年が経った今でも、フルーツの盛り合わせの芸術的な美しさを覚えています。
まあ、若気の至りというか、調子に乗っていたんです。
なんの実績もない小娘や若造たちがねえ。
世の中の事、何もわからないくせに、わが物顔で老舗に出入りして偉そうに時事問題を語ってみたり(笑)。
でも100%自分のために時間とお金が使えて、怖いもの知らずだったあの時だからできたこと。
残念ながら今の私には、そんなお店に入る勇気がとてもありません。
まず差し出す名刺がない!
着ていく服もない!!
子供の教育費で精いっぱいだ!!!
あと10年ぐらいしたら、もう一度あの頃のお店に行けるかな。トホホ・・・